全日本博物館学会第43回研究大会で研究発表をしました

hhttp://www.museology.jp/17soukai/%EF%BC%A8%EF%BC%B0%E7%94%A817%E5%B9%B4%E5%BA%A6%E7%B7%8F%E4%BC%9A%E6%AC%A1%E7%AC%AC.pdfttp://www.jmma-net.org/?action=common_download_main&upload_id=363

<発表タイトル>

「個人の博物館の利用履歴データの収集と分析」

 <要旨>

■ 背景と目的

 本研究では、個人の一定期間における複数の博物館の利用に関する利用履歴に注目する。博物館という仕組み・機能の利用者は、特定の施設だけではなく、長期間にわたって多数の博物館を利用している。博物館の個々の館の利用については、友の会などの会員の仕組みやアンケートによって、一部の利用者に関して個人のプロフィールと施設の利用履歴の情報を収集することが行われてきた。しかしその集積だけでは、日本に数千館ある博物館の仕組み全体を個人がどのように横断的に利用しているかを把握することはできない。

 近年、横断的な会員管理システムや共通チケットの仕組みが開発され、特定の個人の利用履歴情報を施設をまたがって横断的に収集することが可能になってきている。データの収集と可能な範囲での分析結果報告を以下の事例に関して行う。

・科学リテラシーパスポートβ(通称:PCALi)のデータ 2013年―2016年
・UENO WELCOME PASSPORTの入館データ 2015年、2016年春

■ PCALiシステムの利用履歴データ(期間2013-1016)

 PCALiシステムは、「知の循環型社会における対話型博物館生涯学習システムの構築に関する基礎的研究」(科学研究費助成事業 基盤研究(S))で博物館の学習プログラムのデータベースとして開発され、2017年3月に終了した。ミュージアム間で学習プログラムの開発者が情報交換・交流によって効率的かつ高品質の開発を容易にすることと、一般市民が学習プログラムの目的を意識して利活用できるようにすることを目的としている。

 本システムには27施設の763プログラムが登録され、1,478名の利用者がいた。全体としては施設の配置は全国に広がっており、横断的な利用は必ずしも容易ではない。また、学習プログラムは期間限定である。一方、利用者の基本的なプロフィールデータは取得できている。研究参加施設の分布密度が高く登録利用者数も多い地域に限定して分析を行う。
 各施設の学習プログラム登録状況

■ UENO WELCOME PASSPORT(上野地区文化施設共通入場券)の利用履歴データ

 2015年に始まった上野地区文化施設共通入場券は、現在第4回目が進行中である。このうち、第1回、第2回において記録された利用データ(パスポート識別子、利用施設、利用日のレコード)を分析する。
 この2回では、利用回数(施設数)の傾向が大きく異なる。共通チケットで設定された対象利用館の数や期間が利用のされ方の差異が影響していると考えられる。また利用館の順番の分析結果についても報告予定である。

第1回 2015年3月14日(土)-5月31日(日)
対象3施設。1,000円(税込)。限定30,000部。
東京・上野には、博物館や美術館などさまざまな分野の文化施設が集積している。この地域の博物館を利用によってこの地域を市民により楽しんでいただくことを目的として、「東京国立博物館」「国立科学博物館」「国立西洋美術館」の3館が上野観光連盟と協力して実現した。

第2回 2016年1月2日(土)-5月31日(土)
対象9施設。2,000円(税込) 。限定10,000部。
上野「文化の杜」新構想実行委員会が発行。

■ 今後の展望

 今回の分析対象の2つは、研究が理想とするデータとしてはまだ不足がある。本研究で扱うデータは、プロフィール情報が確認できる利用者が長期間複数の施設利用の時間と形態の履歴データがひとつの理想である。

 ただし、UENO WELCOME PASSPORTは、第3回以降の利用履歴のデータを第1回、2回と比較することで新たな発見も期待できる。

第3回 2016年8月15日(月)-2017年1月31日(火)
対象9施設、2,000円(税込)、限定10,000部

第4回 2017年4月1日(土)-9月30日(土)
対象14施設。2,000円(税込)、3,000円(税込、特別展チケット付)3,000部限定。

また、現時点では、利用者のプロフィールデータが取得されていないが、事後アンケートの仕組みなどを付加することにより補完していくことを検討したい。

<参考>

2015 本間, 庄中, 松尾、「ミュージアム横断の学習プログラムデータベースへのアクセス数向上策 : 実践と検証」日本ミュージアム・マネージメント学会研究紀要 (19), 81-88, 2015-03

2012 本間 浩一、「共通チケットによる複数の博物館への関心の喚起について」、博物館学雑誌 38(1), 15-29, 2012-12

2010 本間, 西村、「博物館ブロガーの出現と記述対象となる博物館の種類の分析」、博物館学雑誌 36(1), 83-95, 2010-12